ドラゴンズの大野が、8月20日のカープ戦(ナゴヤドーム)に先発して、8回を2安打1失点で今季10勝目を挙げ、自身3年連続となる2ケタ勝利を達成した。7月8日のタイガース戦(甲子園)で9勝目を挙げて以来、実に約1カ月半越しの白星だった。
前回の登板から見られる大野が醸し出す“怖いほど静かな”雰囲気は、この試合も同じだった。気合いといった類いの感情は決して表に出さないのだが、投じる一球一球は凄まじく相手打者に打撃をさせなかった。初回、先頭の菊池を1球でセカンドフライに仕留めると、続く丸、新井をあっさりと内野ゴロに打ち取った。2回はエルドレッド、梵から2者連続の空振り三振。3回は田中に初安打を許すも、後続を何事もなかったように抑えてみせた。さらに5回から7回までは3イニング連続の3者凡退。8回に代打・小窪のタイムリー2塁打で1点を返されるも、後続の菊池を空振り三振で凌いだ。
試合後の大野は「チームが勝てない試合が続いていたので、なんとかしたいという気持ちがあったが自分も躓いて苦しかった。10勝は目標ではなく、もっと上を目指していたのですが、心のどこかで隙ができてしまっていた」と5度の失敗を繰り返した間の苦悩を明かしていた。そこで、この試合に臨むにあたって参考にしたというのが、先日、完封勝利を挙げたファイターズの大谷のコメントだったという。「今日が開幕したつもりで投げた、というのを聞いて参考にしました。そういう切り替えの仕方もあるんだなと。できることをひとつひとつやっていこうと。勝ちがついていた春先はシンプルな考え方だったことを思い出した」と好投の要因を挙げていた。
マウンド上では決して見せなかった安堵の表情が、いかに苦しんだ1カ月半だったのかを物語っていた。トンネルを抜けた竜のエースはこれから最多勝という栄冠を懸けたレースに挑んでいく。
文:高橋健二