「皆さん、こんにちは。母に2000元を借りて、みんなにコーヒーをご馳走します。ぜひ飲んでくださいね。國宸より」初めてチームメイトに「MVPコーヒー」をおごった富邦ガーディアンズのルーキー・范國宸は、一枚の貼り紙でみんなを笑わせた。まだ新人だが、一ヶ月目の給料をもらう前に早くもMVPをとった。しかし、実は范國宸が野球を始めたのは、同じ年の選手に比べてずいぶん遅かったのだ。
取材╱李艾純 写真╱戴嗣松・羅紹文 翻訳/黃意婷
范國宸profile
‧生年月日:1994.11.25(23歲)
‧身長/体重:183cm/88kg
‧守備/投打:内野手/右投げ右打ち
‧経歴:富邦ガーディアンズ(2017シーズン中~)
范國宸の経歴を見みると、桃園新明中学校、平鎮高校、台湾体育大学、すべて野球の名門校だ。しかし、中学までバスケットボールをしてた彼は、いきなり野球の名門校に入ると、チームメイトと同じレベルではないのは言うまでもない。中学二年生の時、野球を1回諦めようとしたことが、唯一の挫折だった。
守備の名人・黄忠義に教わり ウインターリーグで大躍進
「あの日のこと、全然忘れられませんね。母に電話をしたら、『もしもし?』って母の声を聞いて、『…ううん、なんでもない。じゃな!』って言ってしまいました。たくさん野球の道具を買ってもらってチームに入ったのに、諦めるという言葉がなかなか出せませんでした」5分後、もう一度家に電話をして、「野球を諦めることにした」と言った。しかし、やはり神様も彼を見捨てられず、「一週間後、試合に出ることになったので、しばらく野球を続けようと思いました。」
しかし、試合に出ても、代打しか出番がなかったため、人一倍頑張らなければならなかったそうだ。「休みの日、次の試合に出る人だけ練習することになっていましたが、両親には、『用事がなかったらそこに残って練習しなさい』と言われました。なので、休みは夜中まで、コーチに教えてもらい、張皓緯(アマチュア野球・トプコファルコンズ所属)と一緒に寮でバッティングの練習していました。」名門の平鎮高校に行っても、李宗賢、蘇智傑、曹佑寧などの先輩たちが輝いているのを見て、自分のレベルの低さを嘆いた。それに、平鎮には野球部員が大勢いるため、試合によく出る選手は球場で練習するのに対して、当時の范國宸のような選手は、室内でしか練習ができなかったため、「どんなに練習しても、将来が見えない。と思わずにはいられませんでしたね。」と振り返った。
ある日、幸いなことに范國宸の努力が報われたのだ。高校二年生の時、一度チームメイトの怪我で出場のチャンスがめぐってきた。その後、スターティングメンバーとなり、球場で太陽の光を浴びながら練習するという夢を叶えた。「最初は家族にも期待されませんでしたが、だんだん試合を見てくれるようになったため、自分ももっと頑張れるようになりました。」平鎮高校は選手の層が厚く、自分の役割を果たせばいいと思ったが、大学に入学して、ある人物に出会ってから自信ができたそうだ。
「大学に入ったばかりの時、そんなに難しくないと思ったのですが、社会人チームと試合をしたら、やはり自分の能力を疑いました。しかし、黄忠義監督(元興農ブルズ)に指導を受けたおかげで、練習している間、目標が見えるようになった。とても厳しい監督なので、練習の遅刻はもちろん、ちょっとした不注意でも監督に叱られるんです。」
興農ブルズの大ファンだった范國宸は、初めてプロ野球の試合を見た日に、黄忠義のサイン会を楽しみにしていたそうだ。自分の憧れている監督について、笑いながらこう語った。「監督は、よく自分が『潔癖』の人だと言って、きちんとすべてのプレーを完成させようとしている人です。」もともと守備位置が一塁だけだった范國宸は、黄監督に三塁の守備も練習するようにと言われたため、自分の競争力を向上することができた。
ユニバーシアードで韓国のエース崔採興を攻略し人気者へ
台湾体育大学も平鎮高校と同じ優秀な選手を揃えているため、入学した当時、四年生には郭俊麟、許基宏など、現在日本や台湾のプロ野球に所属している選手がいた。2年目以降、スターティングメンバーになった范國宸は実力も上がり、アマチュア野球の大会で打撃部門の賞を取ったこともある。しして、代表チームに選ばれ、2016年のウインターリーグに参加した。11試合で.314の打率を残した范國宸は、さまざまな国の選手との対戦によって経験を重ねて、プロ野球に入る決心もできた。それだけではなく、大学選手権では打率一位になり、ユニバーシアードでも韓国のエース投手崔採興(Choi Chaeheung)からヒットを放ち、バッティング技術をファンに見せつけた。プロに入ることが決まった彼も、その試合によってファンの注目を集めた。
プロ7試合目で3ランホームランを打ち MVPとなった
ユニバーシアードが終わって、范國宸は富邦ガーディアンズの一員になった。9月の終わりに、一塁手の林益全が怪我のため休んでいたため、そのかわりに一塁を守るのは范國宸だった。2試合目の先発でプロ初のヒットを打ち、9回裏のタイムリーヒットで逆転勝ちを収めた。それからの2試合も5-4、3-3の猛打賞の活躍で、6試合目に、生涯初のホームランを放った。試合の後に、「まるで夢のようでした!」と語った彼は、次の試合でも3ランホームランを打って点差を広げ、Lamigoモンキーズの反撃を抑えた。素晴らしいバッティングを見せた范國宸はその試合のMVPに選ばれた。2週間と言う短い期間でプロに適応し、長打力を発揮したことは、ガーディアンズの葉君璋監督も嬉しい誤算だった。
その後、2017年11月に行われたアジアプロ野球チャンピオンシップの代表に推薦された。長打力について、范國宸は確実に打つことが大事だと言っている。また、打率も維持していくことを、プロ野球でプレーする一つの目標にしたいと決心したそうだ。
とても楽天的な范國宸は、笑っていると目がなくなって、常に笑顔でチャレンジする。ベンチからスタメンになることが近道ではなく、きちんと実力をつけていくことが大切だと言っている。「球界でよく言われているように、努力するしかありませんね!人一倍頑張れば、チャンスがあると思います。」競争が激しいプロ野球に入って、今後も同じ態度を貫いていく。