史上稀にみる混戦のセ・リーグとなっているのだが、かつて強豪チームと謳われた中日だけが蚊帳の外に置かれている状況だ。7月10日終了時点で首位・巨人とは6ゲーム差。絶望的な開きでは無いにせよ、借金10という数字がチーム状態の悪さを物語っている。原因は一体どこにあるのか…。それは谷繁監督兼選手が掲げている“守り勝つ野球”が徹底されていないことではないだろうか。
失策の数がリーグワーストの54を記録していることからも明白だが、内野守備の陣容に再考の余地があるとみる。例えば、主に遊撃手でスタメンを張ってきたエルナンデス。本人が自分の長所は守備と話すとおり、肩の強さと軽快な動きは長所である。しかし一方の短所として、なんでもない平凡なプレーでミスを犯してしまう。最も近いところでいえば7月10日の広島戦の7回。先頭打者・丸のゴロをさばくも悪送球で出塁を許した。このイニングは無失点で切り抜けられたものの、2対3の接戦を追う展開でこんなミスが出ていたら逆転の機運など高まらない。また三塁側のファウルゾーンに飛んだフライなども左翼手と三塁手に任せて中途半端な追い方をしては、誰も捕球ができずアウトカウントを稼げないシーンも多々見られた。エルナンデスのプレーが際立って雑に見えてしまうのは、名遊撃手としてチームの黄金期を支えた井端弘和のプレーを見てきたことも一理あるだろう。井端は魅せるプレーもさることながら、アウトにできるプレーは確実にこなしてきた。それも平然と、である。
かつて落合博満監督が率いていた頃は、これでもかというぐらい堅守に徹底していた。決して打率は高くなくても渡辺博幸や英智、打撃不振に喘いでも使い続けた荒木や井端といった名手を起用して相手に隙を見せない守りで接戦をモノにしていた。しかし、谷繁監督兼選手はといえば、そこまで徹底しているようには思えない。もちろん落合監督が率いていた時の面子が去り、守備がウリだった選手も全盛期を過ぎたことによって低下したこともある。しかし、今のメンバーにも守備から流れを作り出せる選手は確かにいる。9年目の堂上直倫だ。
それを見せたのが7月7、8日の阪神戦。三塁手として先発出場をはたすと、確実にアウトにする堅い守りで投手を助けていた。7日の2回無死2、3塁の場面。サードゴロを冷静にさばいて三塁走者のマートンにタッチしてアウトを奪うと、すかさず一塁へ送球をして併殺を完成。高卒3年目の若松を勇気づけるプレーだった。この2試合の安打は1本に終わったが、試合の結果をみればこの2試合をチームは連勝。あらためて中日というチームは守りから勝利の流れを作り出すのだと感じさせられた。
ここのところの谷繁監督の采配をみるとルーキーの遠藤や友永を先発で起用するなど若手にチャンスを与えているが、決してやみくもな若返りを図ろうとしているわけではない。若手とベテランを区別せず相手投手との対戦成績を考えたラインアップを組んで、あくまで勝利にこだわった姿勢を崩していない。そうであるならば、今一度就任当初に掲げた“守り勝つ野球”を実践してほしい。堂上は三塁手だけでなく遊撃手や二塁手もこなせる。内野守備陣の要となれる堂上を起用して、綻びを防ぐ堅実な守りにこそ浮上のきっかけが見えてくるのではないだろうか。チーム打率は上がっても最下位にいることは紛れもない事実なのだから。
文:高橋 健二